[読書感想] 芥川賞作家による爆笑妊娠出産エッセイ「きみは赤ちゃん」(川上未映子 著)

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川上未映子氏と阿部和重氏。どちらも芥川賞作家というなかなか珍しい組み合わせのカップル!その川上さんによる妊娠・出産エッセイ本「きみは赤ちゃん」です。もともとウェブで連載されていたものを書籍化された一冊ですが、さすが本職の作家とうなってしまう描写力には圧倒されました。人気ブロガーや漫画家の妊娠エッセイなども読みましたが、文章力の差は一目瞭然。かといって難しい言葉などが使われているわけではなく、ユーモア溢れていて、笑っちゃいけないけれど思わず笑ってしまう文章や、かといえばマタニティブルーの心のゆらぎなどが繊細に描かれていて、これは妊娠中に読んでよかったと思わざるをえない一冊でした。夫も読んで、すごく面白かった!と絶賛するほど。

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目次

出産編 できたら、こうなった!

陽性反応
つわり
出生前検査を受ける
心はまんま思春期へ
そして回復期
恐怖のエアロビ
かかりすぎるお金と痛みについて
生みたい気持ちは誰のもの?
夫婦の危機とか、冬
そして去ってゆく、生む生むブルー
いま、できることのすべて
乳首、体毛、おっぱい、そばかす、その他の報告
破水
帝王切開
なんとか誕生

産後編 生んだら、こうなった!

乳として
かわいい♡拷問
思わず、「わたし赤ちゃんに会うために生まれてきたわ」と言ってしまいそう
頭のかたちは遺伝なのか
3ヶ月めを号泣でむかえる
ひきつづき、かかりすぎるお金のことなど
髪の毛、お肌、奥歯に骨盤、その他の報告
父とはなにか、男とはなにか
夫婦の危機とか、夏
いざ、離乳食
はじめての病気
仕事か育児か、あらゆるところに罪悪感が
グッバイおっぱい
夢のようにしあわせな朝、それから、夜
ありがとう1歳
あとがき

うんうん、とただひたすら共感

ちょうど妊娠中に読んだせいか、渦中にいる私にとっては本当に共感するばかりでした。

たとえば、つわりの章。

いつも小さな驚きがあった。ほかには、つわりで苦しんでいる妊婦さんのブログを呼んだりして、みんながんばってるなあと頼もしく感じたり。でも、すがるような思いでいつまでも、何度でも検索していたのは「つわり いつまで」というワード。つわりを終えたみんなが、ほんとうにまぶしかった。

私もつわりが本当にひどくて、特に吐きづわりで一ヶ月半ぐらいで4kg一気に体重が減ってしまい、ただただ寝て、トイレに駆け込んで吐く、という繰り返しでした。その頃、私も同じように「つわり いつまで」「つわり 終わる時期」を何度も何度も検索していたのでした。

人による、ということはわかっていても、終わりが見えないのが本当に辛くて辛くて、検索して安心したかったのです。

ちなみにこの章で紹介されていたのはこの本。生まれるまでの10月10日、毎日の赤ちゃんの様子の変化が書かれているものなのですが、これは本当におすすめ。実際にはその日本当に赤ちゃんがそんな風に過ごしている、とはわからないのですが、一ヶ月に一度の検診まで、つわりの時期には胎動もないし、わからないので、それを見ることでちょっと救われる、という気持ちはすごくよくわかりました。

出産までの毎日が、こんなふうにやさしく、またきめこまかにつづられており、たびたび吐き気におそわれてトイレにかきこむだけの、いつまでこれつづくねんとつっこむ気力すらもうどうどこにもないうっそうとした日々に、手がかりというか、目標というか……とにかく、いまはこんなだけれども、自分はいまたしかにどこかにむかっているのだ、その途中なんだ、ということを思いださせてくれるというか

ちなみに川上未映子さんは大阪出身なので、ちょいちょい関西弁が出てくるのですが、それがまた同じ関西人の私としては共感を覚える理由の一つでした。

そして彼女は35歳で妊娠ということで、出生前診断についても書いておられます。

わたしたち夫婦は長い時間をかけて、このことについて話し合った。

そもそも検査をする必要があるのか、どうか。もし以上がありますということがわかったら(確定したら)、どうするのか。そのときにもし堕胎という選択をするのなら、わたしたちはいま、いったい誰のための、なんのための出産に臨もうとしているのか。

結局、ご夫婦は大阪のクリフム夫律子マタニティクリニックで検査を受けることを選択し、結果は陰性。だけれども

でも、少なくともわたしは出生前検査をした時点で、「きみよ、生まれてこい、わたしがありのままで受けとめる」という態度はとらなかったんだな、ということは事実だった。後悔とか、後ろめたさとか、そういうのじゃないけれど、でもたしかに、それは点のような空白として、わたしのなかに残っている。

私たち夫婦も高齢出産ということで、出生前検査のことをもちろん話し合いました。その話し合いはやっぱり辛かった。夫の考え方、私の考え方、赤ちゃんの生命と産まれてからのこと…。考えるべきことは山程あるのに、時間は容赦なくやってくるし、先延ばしにできる期間は限られている。今決めないといけない。

たくさん泣いて、話し合って、決裂して、もう一度話し合って。

我が家は結局出生前検査をしませんでした。今はそれで良かったのだと思っています。これは本当にそれぞれの夫婦次第で、出生前検査をしたい、安心が欲しい、という気持ちも本当によくわかりました。

と、こんなシリアスな章もあれば、彼女が無痛分娩をする産院がやたらエアロビ押し(クリニックに併設)で、院長に進められたあげく、なんとかごまかそうとしたあげく「家の近所のスタジオで…」とつい口にしたところ

「どこの?」

「へ?」そこで話がきれいに終了すると思っていたわたしは先生の質問にへんな声がでた。

「どこの?なんていうスタジオ?」

「ど、どこのって……」

エマージェンシーである。イメージ上の赤いランプが点滅してわんわんいい、酸素が完全になくなるまであと3秒、みたいな感じだった。しかしわたしは、小説家である。嘘を書き、日々の糧を得ている、いわば嘘のプロフェッショナルでも、いちおうあるのである。これくらいの窮地、受けてたったるわ……と鼻の穴をふくらませたわたしの口からでてきたのは、

「隠れ家的、な、スタジオっていうかその……」

結局、週に3日のペースでエアロビスタジオに通う羽目になったというところで爆笑しました。すごい産院(笑)

そして、夫であるあべちゃん(阿部氏)がしばしば出てくるのだけれども、マタニティブルー期のあべちゃんへの理不尽とも八つ当たりともいえる会話にも、笑ってはいけないけれども笑ってしまいます。

たとえば。あるとき、わたしが現在妊娠何週の状態であるのか知っているのか、ときいてみたら、知らなかった。まずそれにかちんときた。25週やで、とわたしはいちおう伝えてみた。そして、後日。妊娠25週目のおなかの赤ちゃんがどんな状態か、知ってる?ときいてみた。たとえば映像情報でも、文字情報でも、おなかの赤ちゃんがいまどれくらい成長しているのかとか、そういうこと知ってる?と。でもあべちゃんは知らなかった。わたしはそれにたいして急激に怒りがこみあげた。というのも、そういうのはネットで検索すればいくらでも知ることのできる情報であり、そしてあべちゃんは一日に28時間くらいネットにつながっているからで、なにをそんなにみているのか見当もつかないし、目が疲れないのかとか〜中略〜時間はたんまりあるはずなのに、われわれの一大事であるはずの妊娠、ひいてはわたしのおなかの赤ちゃんについてただの一度も検索をしたことがない、ということに、わたしはまじで腹が立ったのである。これはたんに興味がないだけの、証拠じゃないか!

男性からすると「理不尽…!」と言いたくなるかもしれませんが、まぁ、マタニティブルーというのはそういうものだ、ということで(笑)

ちなみに私は常に体調が悪かったので、マタニティブルーになる元気もなかったというか…。怒るのにも気力体力がいるんだなぁとしみじみ感じています。いや、本当に。

それにしても、さすがプロの作家によるエッセイは面白いなぁと感心するエッセイでした。

ぜひいま妊娠中の方、奥さまが妊娠されている男性にも読んでみてほしいです。

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